Interview 職場の未来を変えるメンタルヘルスとコミュニケーション

株式会社ライフバランスマネジメント研究所 代表/帝京平成大学人文社会学部・大学院環境情報学研究科 教授/BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ/一般社団法人 日本メンタルヘルス講師認定協会 会長/認定・産業カウンセラー、心理相談員

渡部卓

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職場のメンタルヘルスやコミュニケーション対策の第一人者として、900回以上の講演実績を誇ります。早稲田大学政経学部を卒業後、モービル石油に入社され、米国大学院留学を経て、ペプシコ、シスコシステムズ、ネットエイジ(現ユナイテッド)などで海外勤務を含む本部長や副社長を歴任されました。現在は株式会社ライフバランスマネジメント研究所の代表を務めるとともに、早稲田大学理工学術院で教鞭を執られています。職場ストレスやコミュニケーション改善に関する多くの書籍や講演で高い評価を受けており、さまざまな組織で職場環境の改善に貢献されています。今回は渡部卓さんのキャリアや日本のメンタルヘルス、ハラスメント問題などについてお伺いしました。

学校では教えてくれない 大事なこと

渡部卓

―――渡部先生は元々ビジネスパーソンとして外資系企業での勤務や、起業をされたキャリアがございますが、現在はメンタルヘルス、ハラスメント問題対策の第一人者としてご活躍をされています。その経緯やきっかけを教えていただけますか。

私は大学卒業後、月並みの出世を目指して、支店長、部長、役員などになれたらいいなという思いで当時は働きずくめの時代を過ごしていました。ビジネスパーソンとしてはトップセールスも経験したりで比較的順調だったのですが、その頃に何人かの親友の自殺を知りました。暗い話なのですが、これがメンタルヘルスについて考えるきっかけとなりました。心理的な安全性や健康配慮義務などが無視されていた当時の職場環境、そして私もそうであったように、
ワークライフの欠如や、出世、お金、見栄などが反映した時代の価値観もあったように思います。その後、アメリカの一流と言われる米国でのMBAに行き、 マーケティングとファイナンスを専攻して、日本では学べない最先端のことを勉強しました。実際にその後はマーケティング部長や営業部長、企画部長なども経験しましたが、仕事の知識や技能、経験より大事なものは、やはりメンタルヘルス、心身の健康と実感をしました。 ただ、それを保つことは、教科書で学ぶだとか知識とかそういう世界ではなくて、すごく勉強しにくいことなんですよね。メンタルヘルスは学校でも教えないし、MBAでも教えてくれない。すごく大事なことなのに、精神科医や臨床心理士などの専門家でも、ビジネスの経験がないと語る人も当時は少なかったのです。

―――渡部先生自身が経験されたハラスメントも現在のキャリアに影響を与えたのでしょうか?また、ハラスメント防止やメンタルヘルスにおいて重要なことは何ですか?

私は転職経験が7回あり、数十人の上司と接してきましたが、その中には典型的なハラスメントをする方もいました。一番ハラスメントを受けていた時が外から見ると、一番頑張っている、活躍している、みたいに見えるんですよね。ただ、ハラスメントっていう状況があると、もう仕事に対して一挙にやる気がなくなっちゃうわけですね。 営業支店長もベンチャー企業の社長もやりましたが、時には強い指導もしなければいけない時もありました。大事なのはやはり「共感コミュニケーション」です。要するに、部下と上司の双方向での共感コミュニケーション。 上司と部下、またZ世代とのコミュニケーションスキルは、学校や資格では教わらない重要な分野です。その中ではメンタルヘルスやストレスの要素の重要性も痛感しました。ただ一方で世の中の経営者や役員クラスの方々はこの大事さをわかってないことがよくあります。ですからそこを私が講演やコーチングをして、理解を広める。これが私の社会での役割かなと思ったんですよね。コンプライアンスの見地や臨床医学的なアプローチも大事ですが、やはり実際に管理職などでのストレスやうつを経験した経験談は好評ですので話をしています。 私も過去、中間管理職の上下からの板ばさみでのサンドイッチ症候群から円形脱毛症に悩んだこともあります。このまま続けていたら一生治らないのではと思い、自分のやりたい仕事をやろうと決意しました。ハラスメントやメンタルヘルスについて世の中に講演やコーチングで啓発していくという仕事は、ほとんどやれる人がいないと当時は思ったんですね。大企業での幹部の仕事を辞めた時はものすごく周りから心配されましたが、実際にはNHKなどのメディアでも紹介され、その後は営業をしなくても、問い合わせや引き合いには一度も困らないほどのニーズがあり、テレビや新聞、大手雑誌などでも連載コラムをもったりして、年間100回以上の講演もしていました。さらに学会の常任理事や大学でも教えるチャンスに恵まれました。時代のニーズの追い風があったと思います。

―――最近ではどのようなテーマでの講演・研修依頼が多いのでしょうか。

現在、最も多いテーマは【ハラスメント対策】で、残りは【メンタルヘルス】や【D&I】(ダイバーシティ&インクルージョン)に関するものです。また、【上司と部下のコミュニケーション】や【Z世代とのコミュニケーション】【ワークライフソーシャルバランス】【ストレスマネジメント】なども依頼されています。新入社員向けのメンタルケア研修も行っています。

日本は ハラスメントの多い国

渡部卓

―――ワークライフバランスやハラスメントについて、日本と他国では考え方に違いがありますか?

アメリカやドイツの知り合いと話していると、やはり国際的に見ると日本のワークライフバランスは歪んでいると言われます。例えば、海外では警察署長が1か月の休暇を取る国もありますが、日本では管理職でもほとんど休まないのが現実です。日本は生産性が低いというのは明らかです。昔に比べると残業時間も減っていますが、会議や稟議、社内研修などクオリティの部分でまだメリハリがないですね。そして日本はハラスメントが多い国と言えます。海外が少ないというわけではないのですが、嫌だと感じる社員はすぐに辞めます。日本人は耐えようとしますね。なのでハラスメント研修でもアサーション(嫌われないずうずうしさ)アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)について事例で時間をかけて説明することが必要です。ハラスメントをする管理職の人は優秀な人もいますが、せっかちで、結果を厳しく求めすぎます。でも本人が実績をあげることも多いので周りの人が注意できないんですよね。

ハラスメント防止に繋がる、 「かりてきたねこ」

渡部卓

―――部下を叱るシチュエーションでのハラスメントが多いと聞きますが、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。

部下を叱る際に意識して欲しい7つのポイントがあります。
その頭文字を並べたものが【かりてきたねこ】です。

か … 感情的にならない
り … 理由を話す
て … 手際よく済ませる
き … キャラクター(性格や人格)に触れない
た … 他人と比較しない
ね … 根に持たない
こ … 個別に伝える

叱る際にはこの「かりてきたねこ」のポイントを意識することが大切です。まず、主語を「私」にして話すように心がけます。相手の良い点や努力を認めたうえで叱るようにしましょう。また、叱る場面は他の人がいない個別の環境で行うことが望ましいです。

Z世代の価値観と コミュニケーション

―――現在、Z世代と日々携わっている渡部先生から見て、若い世代の仕事に対する価値観はどう変わってきているのでしょうか?

Z世代は「ワークライフバランスが出来る上司がかっこいい」と考えており、酒好きの上司や飲みニケーション、仕事でのゴルフなども好まない傾向が年々強まっています。また、Z世代は出張や合宿も嫌う傾向がありますね。あまり外に出たくないという考えで、プライベートもですが、ネットやYouTube、SNS、ネットゲームなどを好むので遠くに出るのを嫌がる、うち籠りの傾向が増えつつあります。理由としては、スマホやネット関連費用でお金がないことや、コロナの影響があります。そして経済が与えている不安を感じていますね。大企業だとしてもどうなるかわからないという考えがあり、自分でしっかり転職力をつけないと将来会社には頼れないと思っていますが、若いですし、まだ自分に自信が無いので不安になりますよね。あとは、就職先を決める時も企業のハラスメント対策には注目しています。インターンシップやリクルーティングの時に、その企業がちゃんとハラスメント研修などの研修制度があるかどうかも見ています。例えば企業HPの表面だけでなく、実態を探ろうとしていますね。子育て支援や健康経営を標ぼうする企業かどうかも気にしています。

―――Z世代の社員とのコミュニケーションに悩まれている上司の立場の方も多いと聞きます。

まず、Z世代はこうだ、などと一括りにしない方が良いと思います。ですが、ダイバーシティの時代とはいえ、その時代の若者の特有な傾向というものもあります。シンプルなアドバイスですが、Z世代の人のスキルを高めたいのであれば、職場のコミュニケーションにアルコールを絡めない。昼間にカフェなどで本音で話すなどのスキルや配慮が出来ないと上司としては失格です。会社の飲みニケーションで社員をまとめよう、などという昭和の時代ではもうないということですね。

―――Z世代とのコミュニケーションで注意すべき点はありますか?

「絶対」とか「常識」という言葉ですね。何が起こるかわからない時代に「絶対」はないですよね。あとは、「昔はこうだった、、、」ということ。上司の経験、経歴や学歴含めて、Z世代は何とも思っていません。上司本人にとっては大事な過去から築いた大切な自信とプライドですが、若い人から見ると「それが何ですか?」という感じ。ですから、自然体で接した方が良いということですね。

―――上司の立場の方へアドバイスをお願いします。

ただ社長や管理職に伝えたいのは、自分の失敗談や不安をどんどん赤裸々に語れということ。新入社員に社長が自分の昔話とか会社の自慢話とか、コンプライアンスの話をしてもほとんど頭に残りません。残るのは、社長が新入社員時代に経験した不安や失敗談ですね。そういう話を幹部たちから聞くと新入社員も安心してこの会社についていこうとしますね。新入社員は甘やかすのではなくて、大事にする。これが大切ですね。また、多様化の時代の中で、同じZ世代でも仕事に対しての考え方に差があることを感じます。意識が高いタイプと、逃げよう、楽をしようというタイプいろいろですね。意識が高い、会社の軸になって欲しい人に対して、会社側もある程度、学びのための費用や待遇に差をつけていくという勇気も必要でしょう。

ライフコーチングと 時代に合った働き方改革

―――コーチングの依頼が増えているとお聞きしました。具体的にどのような内容でしょうか?

2種類あって、1つは完全に会社の経費で受けられるものです。
これは幹部の方たち向けに、よりリーダーシップスキルを上げていくことが目的の内容でで、アメリカの企業では普通に見られることです。日本ではグローバルな一流企業はされていますが、まだまだ圧倒的に少ないですね。現代ではコーチはメンタルヘルスの知識も持っていないと務まらないです。もう1種類は、経営者の方が個人のポケットマネーで受けられるものです。
現在は7:3くらいで会社からの依頼が多いです。まだ、日本のコーチングは一般的に営業的な数字を上げるとか、自己実現に向けての内容が主流ですね。私はワークライフバランスやキャリア、メンタルケアを含めたライフコーチングが重要だと考えています。

―――ひとが集まる職場、働きやすい職場を作っていくために、今後は特にどのようなことを伝えていきたいとお考えでしょうか。

人事や総務の方にもっとプライドを持って欲しいと思うんですよね。企業の人事・総務部長は明らかに保守的で変化を嫌う傾向も多々見られ、良くも悪くも縁の下の力持ちで満足している方が多いような印象です。まさに今の時代は人事・総務には人財と組織を絡めてのグローバルに通用する戦略的アプローチが求められています。ところが、「私は戦略担当ではありません」と引いてしまう人が多いので、人事、総務部門のトップへのコーチング、啓発もやりたいと思っています。事業部に負けずに、人事・総務の方々も自分たちが自己改革と戦略がキーだという誇りとやる気を持って欲しいなと思いますね。現在、政府から中小企業まで離職について悩まれています。あめとむちで離職率を減らすのではなく、時代、世代に合わせた職場の働き方改革、メンタル、ハラスメント予防をどうダイバーシティ&インクルージョンの時代に実現していくかがキーだということを伝えていきたいです。

―――最後に、これから講演会や研修をご企画される皆さまにメッセージをお願いします。

やはり、研修はものすごく大事です。特におすすめは会議室で行う研修ではなく、リトリート研修です。例えば軽井沢での2泊3日の研修で、カーリングをつかってのチームビルディングとメンタルケアを学んだりするプログラムが好評でした。いがみあっていた上司と部下がチームやペアになって森や湖の周りを散歩する内容が組まれたコミュニケーション研修を経て打ち解けて仲良くなったというアンケートに記載をみつけ、これはお金に換えられない研修効果だと研修担当者の方からは大好評だったこともあります。過去の研修の延長での回数を増やすのではなく、ぜひ工夫されたリトリート研修などでバリエーションも増やしていただきたいです。

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