Interview 「フォロワーシップ」×「リーダーシップ」で自立自走型の組織づくりを

伊藤俊幸先生のインタビュー

防衛大学機械工学科を卒業後、海上自衛隊に入隊。その後筑波大学の修士課程も含め、34年間の海上自衛隊生活では潜水艦艦長などの指揮官配置の他、在米大使館の防衛駐在官、海上幕僚監部の広報室長や指揮通信情報部長などのスタッフ勤務を交互に勤務し、最終的には海将までのぼりつめた。現在は金沢工業大学虎ノ門大学院で教授を務め「フォロワ―シップ・リーダーシップ特論」「リスクマネジメント要論」「リスクマネジメント特論」を教えている。また、全国各地で防衛・安全保障や自立自走型の組織作りについての講演会や研修の講師も行っている。

主な著書は『参謀の教科書 才能はいらない。あなたにもできる会社も上司も動かす仕事術』。今回は、海上自衛隊時代に培った「フォロワーシップ」「リーダーシップ」をもとに講演会や研修を行う伊藤俊幸先生にお話を伺った。

人生は目の前の出来事に 一生懸命向き合って決まっていく

伊藤俊幸氏のインタビュー画像

ー今は海上自衛隊での経験を活かして、自立自走型の組織づくりを講演や研修で伝えていると伺いました。まずは海上自衛隊の道へ進んだきっかけをお聞かせください。

防衛大では2年生になるときに陸海空のどの道に進むのかを選ばなくてはいけません。当時は文武両道の憧れの先輩がいたので、私は海上要員の機械工学部を選びました。船舶工学ですから流体力学などの基礎力学や内燃機関などの構造について学びました。

防大には、入学を熱望していた知人に付き合う形で、国立大入試の模擬試験になると思って受験しました。2月に合格発表があり、国立大受験の気力がなくなり、防大に進むことにしました。戦闘機パイロットになればいいやといったいい加減な気持ちで、前述したように、海上自衛官への道に変わりました。「キャリアの8割は偶然の出来事で決まる」というクランボルツ理論そのもののように、私の人生は進んできたと思っています。

私の防大時代はかなりいい加減でしたが、「偶然」については、そんなものだと考えています。長期的な目線でイメージしても、なかなかその通りに物事は進みません。様々な出会いや、目の前の出来事に一生懸命に向き合うことで人生は決まっていくと私は思っています。

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ー伊藤先生にとっては大学の先輩との出会いがひとつの大きなきっかけだったのですね。
海上自衛隊に入隊してからのお話も聞かせていただけますか?

防大4年時、部活のアメフトで足を怪我したため、すぐに入隊できませんでした。卒論は終わっていましたが、同期を卒業式で見送りそのまま別府の病院で治療を行うことに。難しい怪我だったのですが奇跡的に半年で治り、1年遅れで海自幹部候補生学校に入隊しました。その時の負傷兵の人たちとの出会いが、私の人生感を大きくかえました。それまでのいい加減な考え方を後悔して「人・もの・ことから逃げずに向かい合う」と考えるきっかけになりました。

候補生学校では、 「本日の〇〇の指導は、大学卒に対する教育ではない」などと当番時の日誌に毎月書くような学生でした。賛否両論だったようですが、2人の分隊長が「伊藤は面白い」と評価してくれていたそうです。ぶれずにいれば認めてくれる人はいるものです。

その後、私が仕えたある艦長との出会いも重要でした。後に佐世保地方総監にまでなった方なのですが、なぜか私を高く評価してくださいました。私の「リコメンド(提案)」を面白いと受け取ってくださったからだと思います。まさに「フォロワーシップ」なのですが、20代半ばにして私は、上司の指示の裏にある意図を常に考えて、「それならこうしましょう。」「それよりも、こちらを選択した方がよいと思います。」といった具体案を常に提示していました。

ー伊藤先生は1998年のリムパック(環太平洋合同演習)演習において、たった1隻で米軍などの15隻を沈めた伝説を残していますが、当時はどのような状況だったのでしょうか

リムパックは2年に1回行われていて、私だけではなく、1994年と1996年に参加した潜水艦も大暴れしていました。私は、ハワイが3回目でしたので、その海域の音響特性をよく知っており、これを作戦では活用しました。

また、潜水艦勤務は1直6時間の3直制ですから、私は直長である3人の幹部のスキルとマインドを高めるとともに、彼らを中心としたチームワークの向上を図りました。ビジネスマネジメントでいう「チェンジマネジメント」と「組織開発」ですね。リムパックでは、毎回海自潜水艦は活躍していましたから、正直なところかなりのプレッシャーはありました(笑)。

リムパックは「青国」と「赤国」に分かれていて、1998年のリムパックは、赤国に占領されたカウアイ島を青国が強襲上陸し、取り返して終わるというシナリオでした。しかし「赤国」所属の私の潜水艦は、悪役なのに(笑)、その強襲揚陸部隊をすべて撃沈してしまったのです。

青国はサンディエゴに所属する第三艦隊司令官が取り仕切っておられ、その上司としてハワイに司令部がある太平洋艦隊司令官がいらっしゃいます。しかし、普段は訓練中に絶対に口をださない太平洋艦隊司令官が、「たった一隻の潜水艦に全滅とはなにごとだ」と、第三艦隊司令官隷下部隊全軍に激怒の電報を発信したそうです。一方で、赤国大統領兼潜水艦部隊の指揮官だった太平洋潜水艦司令官は大喜びでしたね。

リムパックが終わると第3艦隊司令官座上の空母の上ですべての参加国メンバーによるパーティーがありましたが、私が空母乗艦する際、この司令官に見つかり、「お前のせいで俺は怒られて大変だったんだぞ!」とヘッドロックされました(笑)。あれはいい思い出でした。

講演会と研修では、「フォロワーシップ」と 「支援型リーダーシップ」を伝えている

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ー海上自衛隊でご活躍された伊藤先生は、講演会や研修でどのようなテーマについてお話をされているのでしょうか。

まずは「懐刀(ふところがたな)を作りましょう」ということです。日本における上司と部下の関係は「上司に言われたことを部下がやる」と思っている人がまだまだ多いと感じます。実は民主主義の軍隊における考えはこれと異なり、言われたことだけをするのは「下士官」で、「幹部」は言われる前に「〇〇しましょう」と提案する考え方が求められます。この「参謀」としての経験を経ているからこそ、良き「指揮官」になれるのです。ビジネス用語では「フォロワーシップ」といいます。

参謀として最初に行うことは、「使命の分析」です。上司からの指示・命令に対して、「そもそも、なぜ上司は今この指示をだしたのか」「そもそも、この上司の上司は何を考えているのだろうか」を分析することが大切です。このときのキーワードは『そもそも』です。

例えば「島の周辺にいる20隻を撃滅せよ」と命令が出た場合、その目的は「島を獲ること」だとします。すると島を獲る意味は、早めに戦争を終結させるためということだとすれば、敵艦艇を撃滅しなくても、20隻を誘導し、島の前面を空っぽにして島を獲りにいけばよい。

このように、そもそもの目的をしらないと、手段が全く違ったものになるということです。今の日本社会を見ていると、部下の時代に上司から言われたことしかしていないため、管理職になって上司と部下の板挟みになり、メンタルをやられる人が多いのでしょう。

ー「参謀」のような部下が出てこないのは何故だと考えられますか?

「使命の分析」の思考過程を学んでいないので当然だと思います。なので私は講演会や研修で「フォロワーシップ」と「支援型リーダーシップ」を伝えています。

「フォロワーシップ」のポイントは、部下もリーダーと同様に自ら考え、具体策を作り、これを実行するということです。フラットな関係といってもよいでしょう。欧米社会や民主主義の軍隊では当たり前の考えですが、日本の一般社会では「フォロワーシップ」という言葉を知らない人がほとんどです。

「言いたいことを言わない」忖度がはびこっているのが今の日本です。パワハラ・セクハラが問われ、コンプライアンスが重視されているにもかかわらず、「心理的安全性」が確保されていない会社が多いことに驚きます。近年はパーパス経営が注目されていますが、そのパーパスを主体的に解釈し具体策を議論できる社員や場がなければ絵に描いた餅です。

さらに日本では、「リーダーシップ」という用語が間違って使われています。立場のある人が、率先垂範して人前に出て大声で命令することは「リーダーシップ」ではありません。これは「マネジメント」です。例えば、クラスのリーダーたる学級委員は、ルールで命令するのが任務と決められているのですから、これは「マネジメン」トしていると言うべきなのです。

「リーダーシップ」はルールがない場合に発揮されるものです。この人についていきたいという力を原動力として組織を動かすことを「リーダーシップ」といいます。災害や緊急事態の時をイメージすると分かりやすいのですが、パニックになり皆が右往左往しているときに、自発的に声をあげてみんなを支援し、まとめていくイメージですね。おのずと「支援型リーダーシップ」になるのです。

講演会や研修では、自立自走型の組織を作るための「フォロワーシップ」と、「支援型リーダーシップ」についてその重要性や実践方法を伝えています。

講演会や研修を終えると、 すぐに実践で使えるワードが手に入る

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ー実際に伊藤先生の講演会や研修を受けた方たちは、どのような反応を見せるのでしょうか。

地方で家業を継ぎ2代目・3代目となった若い経営者たちが「自分の業界には若者や女性が入ってこない」として、トップダウンで厳しいだけの「マネジメント」ではなく、「支援型リーダーシップ」に変える必要があるとして、私に講演を依頼してくるケースが6~7年前から増えました。しかし、「いいから俺のいうことを聞け」とやってきた70歳後半以上の世代は、最前列で口を開けて寝ているといった具合で、ひどい反応でした。

ところがコロナ禍を経て、その世代の方々にも変化がでてきていると感じます。それは自分の子供への事業承継や、実際にZ世代の部下と付き合ううちに、必要性を感じるようになったのでしょう。自分たちの考え方こそ改めなくてはいけないと、やっと理解し始めているのだと思います。

我々60歳代は、上司から理不尽な教育をされた世代ですが、それがいやだったから自分たちは「部下にはしない」と決めている人が多い印象です。私が「リーダーシップ」と「マネジメント」の違いを整理し、「フォロワーシップ」の重要性などを伝えると、みなさん一生懸命メモを取りながら聞いてくれます。そんなことわかっているし実践もしているが、それを言語化するのは難しい。私の講演を聞くと、すぐに使えるキーワードが拾えるからでしょう。MBAで学ぶ一つの意味は、自分が実践してきたことを言語化することにあるのです。

「リーダー」は「部下」の ナラティブを知ることが重要

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ー「フォロワーシップ」と「リーダーシップ」に関する講演会や研修を行う伊藤先生が、今後実現したいことをお聞かせください。

今の20代や30代の人達が思ったことを素直に言える社会を作りたいですね。40代や50代も含めてですが、いい能力を持っている人材はたくさんいます。特に50代後半から60代の人たちは、いつまでもプレイヤーのままで居続けようとせず「支援型リーダーシップ」を発揮すべきでしょう。そうすれば、世の中、日本の会社はもっとよくなります。

これからはITやAIが当たり前の世界になっていきます。このような技術がネイティブである若者の意見は、たとえ小さいと思えることであっても、「こうやったらもっとよくなるよね」と膨らませてあげる、事業化につながるようにしてあげることが必要です。「目指せ、名バイプレイヤー」を実現していきたいですね。

ー「支援型リーダーシップ」が発揮できれば、自分で考えて行動できる「参謀」も増えそうですね。そのためには「フォロワーシップ」と「リーダーシップ」を理解するのが大切だともよく分かりました。最後に講演会や研修を企画されている方へ一言お願いいたします。

いまやトップの方々も「組織内でもっとみんな言いたいことを言えばいいのに」と感じている人がたくさんいます。そのような悩みを感じていらっしゃいましたら、ぜひ講演依頼をいただければと思います。

取材・文・写真 田中凌平

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