Special 深堀りインタビュー!講師紹介リレー【002 神田範明さん】
神田範明さん
成城大学 名誉教授/日本マーケティング・リテラシー協会 会長/企画システム研究所 代表
質問1
商品企画のシステマティックな手法の第一人でいらっしゃいますが、
商品企画やマーケティングに興味を持ったきっかけを教えてください。
元々大学院で統計学を専攻していましたが、文系の大学で教えるようになって、数学嫌いな学生諸君に関心を持ってらえるように色々と試行錯誤をしました。各自の興味あるテーマでアンケート調査をしてデータを集め、パソコンでその分析を行うと、身近な内容なので俄然関心を持って取り組んでもらえるようになりました。そこで、アンケート調査という方法自体を研究してみると、意外にも良い方法論がきちんと確立されていないことがわかりました。どうやったら良いデータを集め、良い分析結果を出せるのか、そんな研究を沢山学会で発表するようになりました。
1990代の初め、私が関与していた品質管理の総本山「日本科学技術連盟」が若手研究者を集めて「次世代に役立つ手法・方法論」の開発プロジェクトを起こし、いくつかのテーマで研究会を開設しました。その1つに「商品企画とマーケティング」というテーマがありました。日本の製造業では開発・設計・製造はかなりシステマティックになっているのに、次に何を作ったらいいのかはわからない、そういう迷いが濃厚になっていた時代だったのです。私が市場調査の専門家ということで呼ばれ、リーダーとして商品企画を研究することになったのです。当時の印象としては、調査分析手法ならまだしも、商品企画については「いい加減な世界」「学問にならない分野」と思っていました。しかし、その分未開拓、未確定な内容が多く、特に重要な「商品企画に成功する確率の高い方法論、システム」が世界中のどこにも存在しないし、誰もそれをまともに研究していないことがわかったのです。大いに興味が湧き、他の4名の研究会メンバーと色々な手法を調べ、新たに作ったり試したりしてどんどん深みにはまっていきました。1994年以降何回か学会や雑誌で発表をして本にも書いたりするにつれ企業の方から「実際にやってみて欲しい」と言われ、しかもリコー、パイオニア、日産、アサヒ飲料などで有名企業での成功例がどんどん出てきて10年も経つと「絶対にこれだ!」という確信を持つに至りました。
質問2
特に印象に残っている商品企画のプロジェクトについて教えてください。
また、その成功要因は何だったとお考えでしょうか?
全部で100以上のプロジェクトをあらゆる産業分野、あらゆる規模の企業で実践して来ましたが、どのプロジェクトでも「きちんとした方法論で商品企画を行えば必ず成功する」(絶対に失敗しない)と断言できます。そこに担当者全員の努力や情熱が加われば、「大成功」「大ヒット」となります。
最も印象的だったのは日産自動車が2000年に発売した「X-TRAIL」の商品企画ですね。1990年代の当時日産では売上・シェアがどんどん下降し、「もう日産は危ない」とささやかれていました。相談を受けてやり方を調べてみると、一定の商品企画スタイルがなく、広告代理店の分析結果を鵜呑みにしたり、リーダーの独断で走るような風潮がありました。そこで①企業目線ではなく、ユーザー目線でとことん突き詰めること②とにかく自分で考え、自分で調べ、自分で分析すること③システマティックな手法P7に沿って商品企画を順次行うことを皆さんにお願いしました。数日間の社内セミナーで手法を学んでいただき、実践に入りました。特にユーザーインタビューでは皆さんが土日に手弁当であちこちのスキー場、アウトドア施設などに出向きRV車に対するリアルな不満や改善意見を大量に聞き取り、沢山の新仮説の源泉となりました。定量調査の分析も自分達で行い、それらの沢山の検証データから開発技術者の皆さんも完全に納得し、難しい課題ばかりの研究開発を短期間にやり遂げました。
このような成果としてX-TRAILは完成し、新生日産の象徴として大ヒットとなり、現在4代目となってロングセラーを続けています。
(初代X-TRAILとそのコンセプト、神田編著「顧客価値創造ハンドブック」日科技連出版2004年より)
質問3
商品企画において失敗した経験はありますか?
その経験から得た教訓などあればお聞かせください。
企画案がトップの承認が得られずNGになったことはあります。役員が文系出身で分析の価値を十分に理解されなかったとか、提案が数年先を行っていて早過ぎた、というのがほとんどですね。しかし、上市できた商品で失敗、というのはほぼありません。パイオニアのオーディオ部門では私が指導したP7手法を用いて3年間で18件の新商品を発売し、15件(83%)は会社目標以上のヒット商品となりました。この成功率は普通の企業なら絶対にあり得ないですよね。しかし私は「なぜ100%にならなかったのですか?」と詰問しました。答は「トップの指示で変更」「完全に手法を回せなかった」ということです。
質問4
セミナーや研修会ではどういったテーマのご依頼が多いでしょうか。
また、参加者はどのような方がいらっしゃいますでしょうか?
やはり「成功する商品企画の進め方」ですね。大学でマーケティングや経営学を習った方でも、ありきたりの教科書で実体験の乏しい教授から知識を教わった程度では、絶対にうまくできません。セミナーへの参加者は当然商品企画、商品開発の方が多く、その他新規事業開発、営業、経営企画、役員など様々です。出身は文系、理系半々くらいと思います。
セミナーでは定性的方法と定量的方法をバランス良く組み合わせたNeo P7(新・商品企画七つ道具)という手法を学んでいただきます。ユーザー視点で多数(200件以上)の創造的仮説をどんどん出して絞り込み、緻密な統計手法で必ず購入するターゲット層と絶対に売れるレベル(5段階で4.0以上)の案とを抽出する、という極めてシステマティックな方法です。
もう一つ、良く望まれるのはアイデア発想の方法です。最近のAIでも軽いアイデア程度ならいくつでも出してくれますが、ほとんどはどこかにあるトレンド情報やモノの組み合わせですので、「お!これは凄い」という内容にはなりません。私の方法ですと、視点を多様に変えながら全く新規のアイデアを1時間に30件から50件程度発想できるようになります。
Neo P7の流れ図
質問5
今後のマーケティングや商品企画のトレンドとして注目しているものはありますか?
AIの進歩による影響ですね。アイデアや仮説創出の進歩、仮説検証の効率化や精密化も起こるでしょう。仮想の商品を言葉ではなくリアルに3Dで映像化、動画化できるようになりますので、ユーザーの意見も正確に把握できるようになります。現在の手法体系はそのままで、天気予報のように、精度の高い予測がより短時間に実現できると思っています。
質問6
これから商品企画を目指す若手社員の方へ、アドバイスなどございますでしょうか。
商品企画は文系的(創造的)手法と理系的(論理的)手法の両方が必要です。どちらかが弱いと思われる方は、そちらを鍛える努力をすべきです。文系の方が理系の分析的内容をとことん理解するのは難しいことですが、PCソフトで十分に活用できるようになります。私は30年以上文系学生や文系出身の商品企画担当者を教えて来ましたが、努力すれば問題なく可能です。理系・技術系の方は、自分の学んだ専門にこだわり、実現できるかどうか、開発が困難かどうかを優先してしまう傾向があります。そのため面白く楽しい商品、あっと驚くようなユニークな商品を発想しにくいものです。自分もユーザーという視点に立って「何が欲しいか」「何があったら嬉しいか」から考えましょう。Neo P7にはそのようなユーザー本位の商品の仮説を創出する手法が前半にありますので、是非トライして下さい。
質問7
神田先生の今後の目標や夢を教えてください。
かなりの企業でシステマティックな商品企画に対する認識が上がっていると思いますが、
道半ば、の感があります。私の目標は「日本の全業種、全企業」へのNeo P7の普及です。
大げさと思われるでしょうが、既に自動車、住宅、電気、飲食品、化粧品、生活用品、ビジネス用品、文具、サービス、B to Bに至るまでのあらゆる業種、大は数十万人の超グローバル企業から10人の美容院に至るまで様々な規模の企業を支援して来ました。できない商品企画はありません。
質問8
最後に、これからセミナーや研修をご企画される皆さまにメッセージをお願いします。
企画・開発者向けの社内商品企画セミナーを例にお話します。
大抵の商品企画セミナーはグループ研修方式で、「どんな商品にニーズがありそうかディスカッション」⇒「皆でアイデアを出し合って、選ぶ」⇒「パワポで提案」といったものですよね。チームワークは育ちますし、企画のヒントは得られますが、スキルほとんど身に付きません。Neo P7セミナーは7手法を順次レクチャー(簡単な実習込み)で学び、それを皆様のテーマに即してすぐにチームで活用して必ず結果を具体的に出します。困っているテーマに応用しながら学びますので、目からウロコが連続し、完璧に身に付きます。多くのセミナーで定量調査は社内実施なので結果の適用範囲は限定的ですが、それでも高いレベルの提案が得られます。調査を外部実施すれば正確で実用的な予測が可能です。なお、チームとテーマは1つでなく複数の同時進行でも大丈夫です。どうぞご相談下さい。
神田さん、ありがとうございました!
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